これもまた ガールズトーク?

〜789女子高生より ( お侍 拍手お礼の六十三 )
 


転生人という変わりダネ、
実はもののふだったという、
複雑で奇矯な過去を覚えてもいて。
もう少し年を重ねた身であった…とはいえ、
目の前で白刃が振られる、
尋常ならざる修羅場を肌身で知っているがため、
度胸もあっての落ち着いており。
且つ、
小さい子供によくあるような、
二者択一しかないとついつい思い詰めるような、
十代にありがちの視野狭窄なところもなくの。
どんな状況にあってもあちこちへ視野を向けられる、
しっかり者のお嬢様たちではあったれど。
日頃のなんてことはない会話には、
時折 突拍子もない言いようが飛び出すところが、
それこそ、


  今時な…というか、
  それとも個性的というべきか。


よく磨かれ丁寧に使い込まれて来たことを思わせる、
紫檀のように奥深いつやをおびた格子戸を、
カラカラカラと勢いよく表から引き開けて。

 「ゴロさん、ゴロさん、ただいまですvv」

複数分の話し声やら、
微かなそれながら
革靴の踵が砂混じりの石を擦る音も入り混じっての、
そんな気配と連れ立って、
出先から戻った同居人の伸びやかな声へ、

「おお、戻ったか。ではさっそく捌こう。
 シチさんや久蔵殿も、昼餉はまだだろう。
 ウチで食べて行かれよ。」

さほど暗くはないながら、風通しがいいのでと
三和土
(たたき)へ置いたままにしておいたクーラーボックス。
出迎えかたがた、それを取りに出て来た五郎兵衛だったのだが、

「そうそうvv
 何たって、これはゴロさんが今朝釣った逸品ですからね。」

そんな彼に先んじて、
クーラーボックスの蓋をぱかりと開けていた平八だったりし。
そろそろ期末テスト前の短縮授業とやらなのか、
部活もお休みなので一緒にお勉強しましょうと、
女学園から真っ直ぐ まずは此処へと帰って来た三人娘。
厳密には校則でもいけないとされている“寄り道”じゃああるが、
こういう事情で、
しかもそれぞれに家へは報告もしておいでなのでと、
特に悪びれもしないままのご帰還であり。
出迎えにとお顔を出した五郎兵衛への会釈とほぼ同時、
どんと提示された大物へ、
ふたりの金髪娘たち、あっと言う間に眸を奪われており。

 「…凄いもんですね。こんな大きいの。」
 「………。(頷、頷)」

大きめのクーラーボックスからお目見えした大きな鯛へ、
おおと眸を見張ったお嬢様二人へ、

 「二人ともそんな大仰に感心してどうしますか。」
 「だって。」

50センチ以上あるんじゃありませんか? これ、と
青い眸を見開いて、素直に大きさに驚いたのが七郎次ならば。

 「お主は慣れてもおろうが…。」
 「はい?」

久蔵の側はそれ以前の問題、
切り身になっていない生魚を直に見たのが久々だったらしい。
妙なところで立派にお嬢様だったのねと、
あとの二人の表情がちょっと止まったのはさておいて。

「ゴロさんは、こう見えて釣りだってお上手なんですよ?」
「本当に多趣味ですよねぇ。」
「自分でお魚捌くうち、
 美味しいのを自分で釣りたくなったそうで。」
「そういうもんでしょか。」
「…兵庫なぞ、外科医のくせに。」
「そうですか。外科医なのに、
 生魚を触るのは苦手なのですか。」
「………。(頷、頷)」

 “何で今ので そこまで通じるんだろ、シチさんてば…。”

今更今更。
(苦笑)
それはともかくとして…自分でも料理をする平八や、
菓子からレパートリを増やしたい、絶賛勉強中の久蔵に、
こちら様も別段気持ち悪いとは思わぬ性分の七郎次…としては、
お膝へ手をついての前のめり。
まぶたに青いのがついてるのは新鮮な証拠だの、
釣りたては旨み成分が少ないが、
湯引きすると美味しいらしいとテレビで言ってましただの、
あれこれ取り沙汰する彼女らだったが、

「それにしても大きいですよね。」
「しかも、ここに注目。ウロコが綺麗な桜色でしょう?」
「うん。」
「……。(頷)」
「養殖だと浅いところで餌をもらって育つので、
 どうしても陽に灼けて黒ずむんですって。」
「あ、ということは。」
「そうです、
 こうまで綺麗な桜色なのは深いところを泳いでたってことで、
 すなわち“養殖”ではないという揺るぎない証し!」

釣るのだってそうそう簡単なことじゃないこと、
よって…という含みの部分をまで誇ってのことだろう。
我が手柄も同然と、
人差し指で天を差しての、一等賞というポーズを取り。
白地のセーラー服をまとった胸を、むんと張った平八だったのへ。
こちらさんたちもノリよく“おおお〜”と、
称賛の拍手をした金髪のお嬢様がたで。

「そっかぁ、えと…野生かぁ。」
「…野生って。違いますよシチさん。」
「うん。/////// 判ってたんだけど、何て言ったっけね。」
「そりゃあ……えっと、あれ?」

度忘れしたらしい至らなさまでが 何とも華やか軽やかで、
聞いてるだけで楽しくなる、
お嬢さんたちの可愛らしい会話に苦笑をこぼしつつ。

 「では、昼餉を楽しみに。」

さぁさ、早く捌いて差し上げましょうぞと、
クーラーボックスごと、生きのいい鯛を抱え、
台所まで引き返しかかった五郎兵衛殿の耳へ届いたのが、

 「そうそう、野良の鯛ですよ。」
 「え〜? そうでしたか?」
 「だって、養殖の逆ですし。」
 「…………????」

正解は“天然もの”だぞ、お嬢さんたち、と。
芝居っけも何もなしで、
かくりとコケかけた五郎兵衛殿だったのは、
言うまでもなかったり……。





  〜Fine〜  11.06.20.


  *こないだ新しいのをUPしたばかりですが、
   あまりにチョー短い思いつきだったので
   こっちへ掲載させていただきました。
   前世の記憶や体験も蘇った身の彼女らが、
   こんな単純な間違いはしなさそうですが、
   あくまでも“ネタもの”ですんで念のため。
   (ちなみに実話です。笑)

   最近の子と限らずとも、
   面白いことをポロポロ言う人は結構おいでで。
   あと、単なる思い込みから間違えて覚えてたことを、
   胸張って言い切ったりする人とか。
   (こんなところは見ないと思うが念のため伏せ字で。
    知り合いの○○さんは、
    ネズミやカピパラの齧歯目という分類名を
    動物園の看板で覚えたはいいんですが。
    長いこと“げっぱもく”だと思ってたらしい。
    看板には“げっ歯目”と記されてたそうですが、
    そうと書くなら
    いっそ全部平仮名にすりゃあいいのにね。)

   ご当人には故意も悪気もないから、
   尚のこと、微笑ましくって可笑しいんですよね。
   知らなくての失態なぞは、笑っては悪いのかもですが、
   馬鹿になんてしてません、
   ありがたいなと思っての笑いです。

    だって

   そんな天然さんて、
   空気を壊したり進行を遅らせたりして、
   周囲を困らせることもたまにはあるかもですが、
   それと同じほど、
   間違いなく周囲を幸せにしてますものvv

   すっとぼけたリアクションへ、
   穏やかに楽しく“あははvv”と笑えるような、
   そんな余裕のある日々を送りたいものです。

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